2014年4月28日月曜日

Sen und Ohngesicht 


ゴールデンウィーク前で何となくうきうきしている、mochi です。


今回の記事は、「千と千尋の神隠し」 "Miyazaki's Spirited Away"(英語版) 、そして Chihiros Reise ins Zauberland (ドイツ語版)を用いて、千 (千尋) とカオナシ (Ohngesicht)についてまとめてみました。


千と千尋の神隠し(ドイツ語版) Chihiros Reise ins Zauberland
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というのも、この作品の中で、個人的に顔なしというキャラクターが最も好きだからかもしれません。

千と千尋の神隠し(Wikipedia 参照) 


カオナシが劇中で他のキャラクターとコミュニケーションを取るシーンは非常に少ないです。おそらく以下に列挙したものが全てでしょう。(★の場面は、後ほど翻訳を比べてみてみます。)


・雨の中顔なしが油屋の庭にいると、千が窓をあけてくれる
・千が新しいお湯の札が欲しくて困っていると、顔なしが渡してくれる
・もっと欲しいだろうと思って札を持っていくが、千に拒否される。
・夜に青蛙が金を欲しがるのであげる。その後、青蛙を食べる。
・油屋の人たちに金を出してあげる。
・千に金を出すが、またもや拒否される。
・男と女を1人ずつ丸呑みしてしまう。
・座敷で飲み食いする。湯婆に「千をくれ!」と言い続ける。
★千に迫るが、またもや拒否される。
★千が苦団子を食べさせて、3人とも吐き出す
・千と一緒に銭婆のところへいく。
・銭婆に編み物の作り方を教えてもらう。
・銭婆のもとでお手伝いをすることになる。


多いように見えますが、作中であれだけインパクトを放っている割には、他者とのコミュニケーションが少ない気がしないでもありません。


上を見渡すと、彼にとってのほとんどのコミュニケーション原理が「欲望を満たす/満たされる」であることに気づきます。例えば、金を出してあげる、お湯の札を欲しい、というように、彼のコミュニケーションは常に相手の欲望によって成り立ちます。
したがって、彼がコミュニケーションを取れない相手は、欲望を出さない人物、つまり千と銭婆だけです。ここまでは大学の講義で聞いた話の受け入りですが....


こう言ってしまうと、カオナシはコミュニケーションを取れない存在、とか、どうしても彼の「異質性」が前景化してしまいますが、結構こういう人は周りにもいるような気がします。相手の顔色を伺ったり、お金で解決したり(笑)

そんな顔なしが水につかった線路をとぼとぼ歩いて、電車が来るときの波に押されて倒れてしまうシーンがあるのですが、顔なしが一気にかわいそうに見えて印象が変わります。もしかしたらこの作品の中で一番好きなシーンかもしれません。

そんなこんなで、カオナシというキャラクターは個人的に気に入っています。


以下では、文化翻訳の観点から、日本語原作の「千と千尋」が、英語やドイツ語ではどのように翻訳されたかを概観したいと思います。特に顔なしと千のコミュニケーションに焦点を当てています。


■ 千と顔なしの対峙シーン(★)

先ほどのシーンをほんの一部、ご紹介します。まずは、このシーンの日本語版から。

カ:これ食うか?うまいぞ。金を出そうか?千の他には出してやらないことにしたんだ。こっちへおいで。千は何が欲しいんだ。いってごらん。
千:あなたはどこから来たの?私すぐ行かなきゃならないところがあるの。あなたは来たところへ帰ったほうが良いよ。私が欲しいものはあなたには絶対出せない。おうちはどこなの。お父さんやお母さんいるんでしょ。
カ:いやだ、いやだ。さみしい、さみしい。
千:おうちが分からないの。
カ:千欲しい。千欲しい。


では、英語版。

カ:Try this. It’s delicious. Want some gold? I ‘m not giving it to anybody else. Of course Sen. What would you like? Just make it.
千:I would like to leave sir. I’ve some place I need to go to right away, please.You should go back to where you come from. Yubaba doesn’t want you in this Bathhouse any longer. Where is your home? Don’t you have any friends or family?
カ:No. No. I’m lonely. I’m lonely.
千:What is it that you want?
カ:I want Sen. I want Sen. 


最後に、ドイツ語版。

カ:Probier mal! Lecker! Willst du Gold? Außer dir kriegt keiner mehr was.
Nur nicht so schüchtern. Was willst du haben? Sag`s mir.
千:Wo kommen Sie her? Es gibt einen Ort, wo ich unbedingt hin muss. Sis sollten besser nach Hause gehen. Das, was ich mir über alles wünsche, können Sie mir sowieso nicht geben. Wo ist denn Ihre Familie? Haben Sie keine Mama und keine Papa?
カ:Nein! Nein! Ich bin allein. Gany allein.
千:Sie müssen doch irgendjemanden haben.
カ:Ich will Sen! Ich will Sen! Ich will Sen!


これらを見比べると、いくつか面白い点が見えてきます。

① 「私が欲しいものはあなたには絶対出せない」という日本語は、英語版では訳されていないがドイツ語版では訳出されている。。

ドイツ語は Das, was ich mir über alles wünsche, können Sie mir sowieso nicht geben. (That, which I want at all, you cannot give me in anyhow.) という訳で、上の日本語と非常に似ているように感じました。それに対して英語では、この意味に値する表現は出さずに、代わりに Yubaba doesn’t want you in this Bathhouse any longer. (湯婆はあなたにここにいて欲しくないの)という表現を付加しています。
英語版は作品全体を通して、付加が多かったように思えます。沈黙を消すためか、原作にない台詞も多く入れられていますので、興味のある方はぜひご覧ください。


② 「おうちが分からないの?」は、英語版もドイツ語版も別の言い方をしている。

英語版は、 "What is it that you want?"(あなたが欲しいものは何なの。) という表現で代えており、ドイツ語版は、 "Sie  müssen doch irgendjemanden haben."( でもあなたにも誰かいるはずよ。) とされています。両方とも「あなたはどこから来たの」に値する台詞は、前半に千が言っているので、重複を避けて変えたのではないかと自分は考えました。(本当のところは分かりませんが、このように翻訳者の意図を考えてみるのも面白いですね^^)



③ 日本語は「~したほうがいいよ」と少し親しい口調を用いている(ように感じた)が、英語版は "... please, sir" などかなり丁寧な言葉遣いをしている。ドイツ語版も相手を "Sie" という遠称を用いている。

最後は、千とカオナシの人間関係についてです。

カオナシと千は、最初は客-油屋のスタッフという関係ですが、次第に狙う人-狙われる人、助けられる人-助ける人というように、人間関係が変わっていくので、それに応じて彼女らの使う言語も変わっていきます。この場面では、客-スタッフという関係を持ちつつ。狙う人-狙われる人、という緊張関係もあるため、訳版では丁寧な言葉づかいが用いられています。

しかし、原作では千は凛とした態度で、相手を諭しているような印象を受けました。この違いは、翻訳者の意図なのでしょうか。あるいは意図せずに出てしまったのでしょうか。

ともかく、並べてみると面白いので、興味のある方は、ぜひDVDをご覧ください。


■ du と Sie の移り変わり


③との関連で、最後に1つ面白いと思った話を述べておきます。

ドイツ語では、2人称の表現 (英語で言う you ) に du (親称) と Sie (敬称) の二通りがあります。


ドイツ語文法(ウィキペディア)「親称・敬称」参照。


たとえば、千はハクと初めて出会ったときからずっと、du (親称) を用います。(Ich kann dich berühen.: あなたに触れるわ、など。)これは、両者とも年が近く、15歳未満であるために、最初から du を用いるのが自然なためでしょう。(そう思うと、日本語にはこのような使い分けがはっきりとは現れないのに、ドイツ語翻訳は「親称・敬称」の区別もしなければならないとは, 翻訳家さんも大変ですね...。)


それに対して、千が大人と話すときは、たいてい Sie を用いて話しています。子どもから大人は基本的には Sie を使うそうです。


さて、今回のテーマである、Sen と Ohngesicht はどうだったのでしょうか。実は、最初千はカオナシのことを Sie と呼んでいたのですが、ある瞬間から du になります。



それでは、千がカオナシに対して発した言葉の中で、二人称主語のものを全て取り上げてみました。
1つずつみていきましょう。(日本語は拙訳。)

(1)千が戸を開けると、雨に打たれて濡れた顔なしが立っている。 
あの、ずぶ濡れじゃないですか?
Verzeihung, aber werden Sie nicht ganz nass?


(2)川の神様をお迎えした次の日に会う。 
本当にありがとうございました。助けてくれて。
Vielen Dank für Ihre Hilfe im Bad!

※ ちなみに、 Ihre は Sie の活用形です。(所有格)

(3) (2) の直後 
失礼します。
Entschuldigen Sie mich!

★シーン(全て Sie でしたね。上を参照。)

(4) 銭婆のところへ電車でいく。振り返ると顔なしが立っている。 
え?ああ。一緒に行きたいの?
Wie? Ach so! Möchtest du auch mitfahren?

(5) 電車に入って座ると、顔なしがどうしたらよいか分からず立っている。 
座って。でもおとなしくしててね。
Setz dich, Aber benimm dich anständig, ja?


ということで、千がカオナシに対して Sie から du を使うようになるのは、カオナシが油屋から出て、全て吐き出した後におとなしくなって一緒に電車に乗ろうとするときだったわけです。


日本語だったらこういう SIe と du の関係は、敬語とかに現れるのでしょうか。まだドイツ語はアマチュアなので分かりませんが、日本語版の作品を解釈してドイツ語独特の言語体系で表現するというのは、さぞ大変なのだろうと垣間見ることができました。


一応翻訳学の勉強、というつもりで千と千尋を何回も巻き戻してみましたが、やっぱり良い映画ですね~。楽しい日曜日を過ごすことが出来ました。笑


さて、課題をやらねば。(泣)

2 件のコメント:

  1. 面白かったです。
    私たち日本人が、英語母語話者やドイツ語母語話者があの映画をみてどう感じ取っているかを知ることはとても難しいことです。
    しかし、その数少ない手段が、こうやって言語に表出されている作品の解釈の違いをみていくことなんでしょうね。Sieとduの違いはその好例で、きっとドイツ人はそういう解釈をするのでしょう。日本語版にそういう表現の違いがないのであれば、きっと日本人にはない感覚(少なくともあまり感じない部分)なのかもしれません。
    次の投稿も楽しみにしています。

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  2. ありがとうございます!
    先輩のブログも楽しみにしてま(^^)

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