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2020年8月11日火曜日

小学校国語授業の書籍レビュー

休校期間中に読んだ国語教育関連の本をまとめた。1冊目は板書技術、2冊目は発問技術についてで、英語授業づくりにも役立ちそうな内容を主にまとめた。どちらもわかりやすく事例が豊富に書かれていたので、門外漢の自分でも読みやすく、自分の普段の授業を思い浮かべながら理解できた。

(本当はもう1冊『イン・ザ・ミドル』の書評も入れたかったのですが、今回は断念しました。)


 ◾︎ 沼田拓弥 (2020) 『「立体型板書」の国語授業ー10のバリエーションー』東洋館出版

板書自体を思考ツールに基づいて設計するという趣旨。初等教育ではしばしば用いられている板書技術が体系的にまとめられている。


「立体型板書」においては板書が出来上がっていく「プロセス」の中に、子供たちの思考を働かせるための工夫が散りばめられています。したがって、「立体型番書」を実際に活用するには、慣性系を知るだけでなく、完成に至る「プロセス」も知ることが非常に重要です。 (P.20)


本書ではその思考ツールを「比較・分類」「関連付け」「類推」という3つに分類しており、合計10種類の板書パターンを示している。この板書技術の良さは、板書デザインが授業デザインになり、児童につけたい思考力が明確化されるということ。例えば、児童の発言を引き出した後にそれらをカテゴリー化する活動は「類別型」の板書であり、児童の発言を多く引き出すことと、それらをグルーピングすることが授業の目当てとなる。あるいは、長文を構造別に分けて、それらがどのような内容かを読み取る活動では「構造穴埋め型」板書を用いる。


自分は英語科であるが、例えば次の単元では「もしも5ドル渡されて2週間で増やせと言われたらどうするか」という文章を扱う。生徒にも「もし500円渡されたらどのように増やすか」というスピーキング活動をしてもらうが、そこでの生徒の意見の引き出し方に「類別型」板書を使えば、本文の例と関連して生徒の意見を残すことができる。ある生徒が「宝くじを買う」という発言をすれば、<ギャンブル型>というカテゴリーになるだろうし、「YouTubeの広告で稼ぐ」という発言なら<元金不要型>のようにまとめられる。教科書での事例もこれらのカテゴリーにあてはめられるので、導入と本文理解を同時に進める展開も考えられる。


その次の単元では、Invisible Gorilla という心理学の実験に関する長文を読むので、実際にYouTubeに上がっている動画を見た後に、その長文を読み、実験長文の「目的(研究課題)」「方法」「結果」という構造に分けて「構造穴埋め」板書を使えば、本時のねらいがはっきりすると思う。またその板書を基にしたリテリング活動に展開したり、別の方法でも可能であったかを考えさせることもできるかもしれない。


また、ネイティブ教員の授業とのTeam Teachingでは事前の打ち合わせで板書計画まで交流できれば、お互いが持っていきたい方向性を確認するための手立てとなりうる。授業最中に創発的に面白い板書が出来上がることもあるが、事前のプラニングの段階で板書の原型を作っておけば、生徒たちも自身の思考を深めることができるかもしれない。



◾︎ 高橋達哉 (2020) 『「一瞬」で読みが深まる「もしも発問」の国語授業』 東洋館出版社


続いて、同シリーズの「もしも発問」に関する書籍。

P.18に「もしも発問」が以下の5つに分類されている。


①「ある」ものを「ない」と仮定する方法

②「ない」ものを「ある」と仮定する方法

③別のものを仮定する方法

④入れ替えを仮定する方法

⑤解釈を仮定する方法


筆者は「教師の教えたいことを子どもの学びたい (p.11)」に変えるためにこの発問が有効だとしており、事例を見ても小学校の教科書をもう一度自分も読み直したいと思わされるものばかりだった。


これらの発問は、本文中の表現から出発して児童の思考を促すという点が良い。例えば、文体論的な視点で考えるための手立てとして、「本文中のAという表現がもしBと書かれていたらどうだったろうか」とか「本文中の~~という表現がもしなかったら、どのような影響があったか」という発問は自分もしたことがあった(主に文学作品や歌の解釈など)。しかし自分の発問はかなり言語形式への焦点化のために用いられることが多かった。


本書では解釈にも「もしも発問」が用いられるという点が新しかった。また文学的な文章でなくても、説明文でも効果的な説得技法を学ぶのに用いられるというのが発見であった。


これを敷衍すれば、例えばエッセイライティングのモデル活動も「もしも発問」をすることで、パラグラフの構造にも目が行くのではないか・・・と思い、早速例を作った。


One of the environmental problems is the rising air temperature on the earth.  This may be due to the spread of the use of air conditioners.  In daily life you tend to turn them on as soon as you feel hot even a bit, which leads to the release of greenhouse gas into the air.  In order to avoid this situation, you should turn off air conditioners when it is not that hot. (73 words)


・もしこの文章の第1文がThe use of air conditioners causes the rising air temperature on the earth. で始まっていたら読む人はどう思うだろうか。【抽象具体構造】

・第1文がThe air temperature on the earth is rising and this is one of the environmental problems.  となっていたら、どのように印象が変わるか。【情報構造】

・第2文のyouIだったらどのように読み手は感じると思いますか。【客観性】

・もしも第1文と最終文が逆で、You should turn off air conditioners で始まっていたら、文章はその後どのように変わっていたでしょうか。【主張理由構造】


初学者がどう感じるかはわからないが、3年生の自由英作文対策であればそれなりに教えたいポイントに焦点化させることはできそうな気がする。ただ、この問い方が「教えたいを学びたい」に変えるほどの力があるかは、やはり弱いと思う・・・。やはり、自分の発問は即席感が否めない(笑)。


本書の様々な具体事例は面白かったものの、一番興味を引いたのは筆者のあとがき (p.188) であり、どの指導技術にもデメリットがあることを自覚できるエピソードである。本書をご購入された方は是非あとがきまでお読みください。



2020年2月22日土曜日

プレゼンテーション指導の振り返り


勤務校では英語プレゼンテーション活動が行われており、4年間指導に携わってきた。プレゼンテーション活動自体の吟味もしながら、いかに教員の介入を行うか(行わないか)を試行錯誤している段階である。

大学時代に自分自身が英語プレゼンテーションを好んでやっていたこともあり、できれば高校生にも似たような気持ちを持って欲しいと思いつつ、英語力やモチベーションが一律ではない生徒たちに一定水準まで到達させることの難しさを実感している。

ただ、やる気のある発表を見せつけられてこちらも唸らされることもあり、またドラマチックな場面に出くわすことも多く、スピーキング指導の中では個人的に思い入れのある領域である。

ここでは、この4年間自分が行った内容を反省的に振り返り、他にどのような方法が可能であったかを考察したい。

なお、これまで行ってきたプレゼンテーション活動は、(1)個人別で関心のある内容を自由に紹介する、(2)グループで別教科の探究活動内容を英語で説明する、(3) グループで国際交流会用の学校紹介を練習するという3種類である。どれにもに当てはまるものもあれば片方にしか適用できないものも存在する。

【準備】
◾︎ 目的から逆算しながら内容を考える
プレゼン活動は楽しい。そのため、発表者が言いたい内容をついつい言いがちである。それが観客にも伝わって良い空気になれば良いが、たまに内輪ネタ (in-house jokes) で終わってしまうこともある。

プレゼン単元の冒頭ではその目的設定、聞き手イメージの共有、時間を確認しなければならない。そのプレゼンテーションが何のために行われ、誰が聞き、何分以内で終えないといけないのか。発話量を増やすトレーニング(Word Counter等)では初期段階ではその内容の論理的つながりや聞きやすさは無視される場合もあるが、プレゼンテーションは聞き手ありきの活動である。聞き手にとって要らない情報は出すべきではないし、聞き手が面白いと思わなければ失敗である。その聞き手が(現実にせよ空想にせよ)日本人なのか海外の人なのか、同校生か他校生なのかは内容を精査する上で重要な要因である。

1年生に対して、良いプレゼンテーションの定義を考えるディスカッションを実施した際、 Giving New and Interesting Ideas. というテーマができた。聞き手に対して新しい情報を含んでおり、興味を引くような方法で紹介されたなら、聞いてよかったと思われるだろう。

高校生の準備風景を見ていると、先にスライドから作成し、その後に原稿を作成する生徒が多い。(おそらく原稿作成という面倒な課題を後回しにしているのかもしれないが、)この準備方法の欠点は、しばしば「てんこ盛り」のプレゼンテーションになりがちだということである。スライド作りは楽しいために色々な仕掛けや情報を乗せるが、いざ言語化しようとした時に説明不足になったり、不要な情報がスライドに載ったままであることが多い。

正式な順番というものがあるのかどうかはわからないが、次の機会では原稿作成スライド作成(原稿修正)という順番も試してみたい。期待される効果は、スライドが説明を補助するという本来の役割 (Visuai Aids) になること、英語原稿を作る際に言語化しようとする姿勢が向上することである。前者は先ほどのべたスライド「てんこ盛り」を避けるということだが、後者は原稿だけで相手に伝わる原稿を書こうとするために、結果的にスライドに頼るのではなく自分の言葉で説明しようとする(=原稿量が増える?)という希望的観測である。


◾︎ 原稿添削
避けては通れない山である。原稿の時点で伝わらないものはもちろん伝わらないし、特にプレゼン経験の少ない時期やアカデミックな内容のプレゼンは、原稿を書きながら話している自分を想像させるという過程が必要だと思う。

附属の研究授業に参加した時、授業者の先生が「スピーキング指導で働き方改革をするのは、なかなか難しいものですね」と仰っていたが、今ならその意味も痛いほどわかる。

ここ数年では、英語として合っているかどうかではなく、耳で聞いた時に理解できるかという視点を持つようになった。例えば本人としては納得している関係代名詞などの複雑な構文も、本番の緊張状態やノイズなどで期待した通り伝わらないことも予想される。原稿の時点でこちらがそれに気づけば直すようにアドバイスする。

ただし、やはり働き方改革に着手するという意味でも、原稿のピアレビューで耳で聞いて理解できるかというのは大事な過程だと思う。例えば、原稿を書いてきた時、いきなり教員の手で添削に入るのではなく、隣の人に読んで、相手が理解できるかを試してみるというのも効果的だと思う。そこで相手が理解できなかった文に線を引いて、どのように改善可能かを考えさせ、授業者はその部分のみ目を通して必要に応じてアドバイスをするというのが良いと思う。

この方法は一度行ってはみたが、1年生の段階では「なんとなく」伝わったから自己改善が起きないという様子も見られた。もう少し負荷をかけるなら、聞いた方のペアは聞いた内容を英語(日本語)で再生できるかなどの事後課題を与えても良いかもしれない。もしかしたら、プレゼン原稿よりもさらに簡素化された理解しやすい英文が再生されるかもしれない。(これも希望的観測で、そもそも再生課題自体上手くいかないかもしれない。)


◾︎ リハーサル
リハーサルは基本的に実施するが、(1)生徒同士でリハーサルを実施し、アドバイスを相互に行うか、(2)教員1名に対してリハーサルを行い、アドバイスを受ける。(1)の方が時間短縮できる一方、リハーサル後の改善活動がそこまで上がらないで、結果的に本番で上手くいかないこともある。(2)は効果は高いが、やはり時間が大幅にかかる。(1)は40名クラス、(2)は20名展開クラスという風に使い分けているが、本来であればどちらも行いたい。

リハーサルで大事なことは「思ったほど伝わらない経験」をすることだと思う。原稿も書き終え、スライドも作成したから大丈夫だろうという「書き手本位の錯誤」が起きることがしばしばある。しかし、いざ聞き手を前に話しても、相手は期待したほど反応してくれない。そこで、40名を相手にこの経験をするのではなく、リハーサル段階でプチ挫折を味わうというのが趣旨。

(1)のピアレビューを行うなら、単元冒頭で「アドバイス力」を鍛える練習を入れたい。例えば教員自身が下手な示範を行い、生徒たちにどのようにアドバイスが可能かを意見交換させるという活動も効果的である。(昔はTEDなどの優れたプレゼンを見せていたが、当然プロのプレゼンのため、なかなか批判的に見るのは難しかった。下手な示範と上手な示範の両方を見せるのがおそらく良いのだろう。


【当日の発表】
◾︎ 発表者を評価しない
数年前に田尻吾郎先生の講演会に参加した時、スピーチやプレゼンテーションは発表者ではなく聞き手を評価すべきだというお話があった。そもそも40名の前で散々準備をしてきて、緊張した中話そうとしているのに、生徒や教員が評価シートを使って減点理由を探しながら聞いていると(少なくとも発表者自身が)感じてしまったら、きっと発表の精度が下がってしまう。

逆に、発表当日の冒頭で「今日の授業は発表者の評価はほぼ行わない。前に出て5分間頑張って英語で話している時点で十分すごい。準備も頑張った。」のような声かけを行った時の方が温かい雰囲気で始められたと思う。(もちろんさらに上を目指すなら、発表者の評価も必要だが、形成的評価という意味ではリハーサルの時点で一度評価を行うこともできる。)

代わりに聞き手を評価するための方法として、(1) 質疑応答活動、(2) リスニング小テストを本年度実践した。

◾︎ 質疑応答
昨年度も一部のクラスで行なったが、聞いた内容について聞き手が質問をできるか、それに対して発表者は解答を行えるか(その場で考えて答える質問も含まれる)を行う。

年によっては強制的に各グループに質問を出すよう指示したこともあったが、やはり不自然な質問やネタ質問で終わることもあり、質問者自身の聞きたいという気持ちを無視した指導になっていた。

本年度は「聞きたいことがあれば手をあげてください」という指示を出し、発表者には想定される質問を考えるように事前に伝えた。

結果からいうと、当日の指導者の我慢が鍵である。

Thank you for the wonderful presentation.  So from now on, lets open the floor.  If youve got any questions, raise your hand. と指導者が言っても、なかなか質問は出てこない(学会発表やゼミの発表を思い出しても、そりゃそーだろという感じはする)。

少し待って(3分)、1つ質問が出れば良しである。現実的にそれ以上待とうとすると前半発表が終わらないために結局それで終わってしまう。したがって、1年間質問する姿勢を育てないと不発に終わることがよくわかる。

しかし、指導者の我慢次第ではなかなか面白い雰囲気になることがある、質問者が「聞きたいことはあるのに英語が思いつかない」状態になっていることもあるので、「質問したいことがないかペアで話し合ってみよう」と声をかけて、それもしばらく待つと、ふつふつと面白い意見や質問が生まれることもある。それを膨らませたり、発表者が答えられなければ全員で共有してディスカッション活動につながり、それだけで50分の授業を行うことも一度あった。

現実的制約でプレゼンテーションの発表活動は1班あたり5分の発表と5分の質疑応答という設定がこれまで多かったが、この質疑応答はいかに指導者が我慢し(質問が出ない状態を待てるか)、生じた質問と発表者の解答から生まれる次の議論に結びつけるかで面白くなると感じた。(教員の自己満足になっていなければ良いのだが。)


◾︎ リスニング小テスト
もう一つ本年度実験的に行なったのが「ぶっつけ小テスト」である。

このクラスの発表は事前に一度聞いており、原稿も添削していたので、ほとんど自分も内容や本人たちのメッセージを理解していた。また発表用スライドのデータも手元にあったというのが大前提である。

発表当日の午前が空きコマだったので、発表内容に関するクイズを作成し、事前予告なしで「このプレゼンでは発表者ではなく、聞き手がどれだけ理解できるかを評価する」とした。そして「発表者は聞いているみんながクイズで満点を取れるようにゆっくり伝わるように発表してほしい」と伝えた。各班の発表が終わったらその内容に関する小テストを配り、グループで相談しながら埋めていき、模範解答は発表者自身が答えるという形をとった。

能動的に聞こうとする姿勢(メモをとる、内容がわからないスライドを指差しながら隣の子と相談する姿など)が見え、それなりに盛り上がった。テストは「絶対に答えられる」問題と「きちんと聞いていないと答えられない」問題を混ぜるのがコツである。

この小テストを発表者自身が作るというのも勿論想定できる(し、来年度はそのようにやってみても良いと思っている)。
しかし、このリスニング小テストは発表者以外の第三者が作るからこそ面白いのかもしれない。もしクイズで出題される箇所を発表者自身が事前に知っていれば、そこを強調するかもしれない。しかし、その強調があざとければ聞き手も「なんだ、この部分だけ聞けば良いのか」と本来のプレゼンテーション活動の目的にそぐわない聞き方を誘発してしまうかもしれない。

発表している本人も何が出題されるかわからないという緊張感が個人的には好きだった。ただし、授業者自身が発表内容を熟知していなければならないので、これも働き方逆改革である。苦肉の策は、先ほど紹介した生徒同士のリハーサルでアドバイスをした側に、その相手班の小テスト問題を作ってもらうというものである。これがうまくいけば、同じような緊張感を保てると思う。



【まとめ】
以上、この4年間自分が試してきたプレゼン指導方法を、反省や「こうもできただろう」という視点で書いてきた。総合的に見れば、現時点では指導者の介入がかなり大きいと思うので、いかに生徒たちにこの関与を譲渡できるかが来年度以降の課題だと思う。

他にも、論理的プレゼンテーションの授業でトポス概念を紹介したり、良いプレゼンテーションをみてその特徴を分析するという実践も行ったが、それについてはまた別の機会にまとめたい。