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2020年8月11日火曜日

小学校国語授業の書籍レビュー

休校期間中に読んだ国語教育関連の本をまとめた。1冊目は板書技術、2冊目は発問技術についてで、英語授業づくりにも役立ちそうな内容を主にまとめた。どちらもわかりやすく事例が豊富に書かれていたので、門外漢の自分でも読みやすく、自分の普段の授業を思い浮かべながら理解できた。

(本当はもう1冊『イン・ザ・ミドル』の書評も入れたかったのですが、今回は断念しました。)


 ◾︎ 沼田拓弥 (2020) 『「立体型板書」の国語授業ー10のバリエーションー』東洋館出版

板書自体を思考ツールに基づいて設計するという趣旨。初等教育ではしばしば用いられている板書技術が体系的にまとめられている。


「立体型板書」においては板書が出来上がっていく「プロセス」の中に、子供たちの思考を働かせるための工夫が散りばめられています。したがって、「立体型番書」を実際に活用するには、慣性系を知るだけでなく、完成に至る「プロセス」も知ることが非常に重要です。 (P.20)


本書ではその思考ツールを「比較・分類」「関連付け」「類推」という3つに分類しており、合計10種類の板書パターンを示している。この板書技術の良さは、板書デザインが授業デザインになり、児童につけたい思考力が明確化されるということ。例えば、児童の発言を引き出した後にそれらをカテゴリー化する活動は「類別型」の板書であり、児童の発言を多く引き出すことと、それらをグルーピングすることが授業の目当てとなる。あるいは、長文を構造別に分けて、それらがどのような内容かを読み取る活動では「構造穴埋め型」板書を用いる。


自分は英語科であるが、例えば次の単元では「もしも5ドル渡されて2週間で増やせと言われたらどうするか」という文章を扱う。生徒にも「もし500円渡されたらどのように増やすか」というスピーキング活動をしてもらうが、そこでの生徒の意見の引き出し方に「類別型」板書を使えば、本文の例と関連して生徒の意見を残すことができる。ある生徒が「宝くじを買う」という発言をすれば、<ギャンブル型>というカテゴリーになるだろうし、「YouTubeの広告で稼ぐ」という発言なら<元金不要型>のようにまとめられる。教科書での事例もこれらのカテゴリーにあてはめられるので、導入と本文理解を同時に進める展開も考えられる。


その次の単元では、Invisible Gorilla という心理学の実験に関する長文を読むので、実際にYouTubeに上がっている動画を見た後に、その長文を読み、実験長文の「目的(研究課題)」「方法」「結果」という構造に分けて「構造穴埋め」板書を使えば、本時のねらいがはっきりすると思う。またその板書を基にしたリテリング活動に展開したり、別の方法でも可能であったかを考えさせることもできるかもしれない。


また、ネイティブ教員の授業とのTeam Teachingでは事前の打ち合わせで板書計画まで交流できれば、お互いが持っていきたい方向性を確認するための手立てとなりうる。授業最中に創発的に面白い板書が出来上がることもあるが、事前のプラニングの段階で板書の原型を作っておけば、生徒たちも自身の思考を深めることができるかもしれない。



◾︎ 高橋達哉 (2020) 『「一瞬」で読みが深まる「もしも発問」の国語授業』 東洋館出版社


続いて、同シリーズの「もしも発問」に関する書籍。

P.18に「もしも発問」が以下の5つに分類されている。


①「ある」ものを「ない」と仮定する方法

②「ない」ものを「ある」と仮定する方法

③別のものを仮定する方法

④入れ替えを仮定する方法

⑤解釈を仮定する方法


筆者は「教師の教えたいことを子どもの学びたい (p.11)」に変えるためにこの発問が有効だとしており、事例を見ても小学校の教科書をもう一度自分も読み直したいと思わされるものばかりだった。


これらの発問は、本文中の表現から出発して児童の思考を促すという点が良い。例えば、文体論的な視点で考えるための手立てとして、「本文中のAという表現がもしBと書かれていたらどうだったろうか」とか「本文中の~~という表現がもしなかったら、どのような影響があったか」という発問は自分もしたことがあった(主に文学作品や歌の解釈など)。しかし自分の発問はかなり言語形式への焦点化のために用いられることが多かった。


本書では解釈にも「もしも発問」が用いられるという点が新しかった。また文学的な文章でなくても、説明文でも効果的な説得技法を学ぶのに用いられるというのが発見であった。


これを敷衍すれば、例えばエッセイライティングのモデル活動も「もしも発問」をすることで、パラグラフの構造にも目が行くのではないか・・・と思い、早速例を作った。


One of the environmental problems is the rising air temperature on the earth.  This may be due to the spread of the use of air conditioners.  In daily life you tend to turn them on as soon as you feel hot even a bit, which leads to the release of greenhouse gas into the air.  In order to avoid this situation, you should turn off air conditioners when it is not that hot. (73 words)


・もしこの文章の第1文がThe use of air conditioners causes the rising air temperature on the earth. で始まっていたら読む人はどう思うだろうか。【抽象具体構造】

・第1文がThe air temperature on the earth is rising and this is one of the environmental problems.  となっていたら、どのように印象が変わるか。【情報構造】

・第2文のyouIだったらどのように読み手は感じると思いますか。【客観性】

・もしも第1文と最終文が逆で、You should turn off air conditioners で始まっていたら、文章はその後どのように変わっていたでしょうか。【主張理由構造】


初学者がどう感じるかはわからないが、3年生の自由英作文対策であればそれなりに教えたいポイントに焦点化させることはできそうな気がする。ただ、この問い方が「教えたいを学びたい」に変えるほどの力があるかは、やはり弱いと思う・・・。やはり、自分の発問は即席感が否めない(笑)。


本書の様々な具体事例は面白かったものの、一番興味を引いたのは筆者のあとがき (p.188) であり、どの指導技術にもデメリットがあることを自覚できるエピソードである。本書をご購入された方は是非あとがきまでお読みください。



2013年9月27日金曜日

子安潤(2013)『リスク社会の授業づくり』から学ぶ


久しぶりに大学に帰り、打ち合わせやゼミ、塾バイトが始まりました。来週からは大学の授業もまた始まります。久しぶりに塾で授業をすると、小学校とは違うテンポの授業で、懐かしさを感じさえします。

実は、先週まで小学校教育実習に参加していました。本ブログでも初等教育の授業法に関するまとめを掲載してきましたが、その中で特に難しいと思ったのは社会科でした。

社会の授業を担当する前日に「もっと社会教育の勉強をしておけばよかったな・・・」と感じ、「今からでも遅くない!」と思い立った自分は、社会科教育に関する本を探し、本書に出会いました。

その場の勢いとノリで注文し(夜3時頃)、そのまま寝てしまい次の日の社会の授業に臨みました。
授業は割と予定通りに進み、安心して家に帰ると、注文した本書が届いていたわけです。(正直、夜3時のことで、注文したこともあまりはっきりとは覚えていませんでした。笑)


リスク社会の授業づくり
リスク社会の授業づくり子安 潤

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「今さら他教科の勉強・・・」と思いながらも、せっかく注文したので読んでいると、自分の授業づくりの考え方の甘さであったり、社会教育のみではないリスク社会における授業づくりの原理だったり、今後に活かせると思える点が多々ありました。

やはり、他教科から学べることは学ぶべきですね(0^^0)

今回の記事では、前半は社会科教育やリスク社会の理論面についてまとめ、後半ではどのような授業づくりが求められるか、といった点について言及したいと思います。


■ リスク社会(2つのアプローチ)


ウルリッヒ・ベックによると、リスク社会には4つの特徴があります。

ある危険が人間の目に見えないという不可視性。危険が国家を超える可能性のあるグローバル性。産業社会によってある危険が利益を生むために自己増殖させる無限欲望性。危険が前触れなしに一気に出現する破局性。

このようなリスク社会への対応には「未然防止」アプローチ「予防原則」アプローチの2種類があります。従来は前者がとられてきたが、今日では後者の重要性も認められています。

「未然防止」アプローチとは、「リスクの因果関係や発生確率が科学的に解明されている場合に、リスクの現実化を未然に抑える対策をとること(p.23)です。なにかリスクがあることがはっきりわかっている場合には、そのリスクは予め防止しましょうという立場ですが、この言説には次のような前提がある。そのリスクの因果関係が解明されていないような場合は、未然に抑える対策は取らなくてもよいという考えです。たとえば、Aという教授法があるとしましょう。この教授法は教師にとってやりやすく学習者も満足しているようにみえていた。しかし、有名な研究論文によって、Aは学習者にとって悪影響を与えることが示された。これによって、「ではAの教授法を使うときにはどうしたら悪影響がでないだろう」と考えるようになるのが「未然防止」アプローチ。大胆にいえば「わかっているリスクに対してだけ対策をとっていれば免罪される(同頁)」。

それに対して、「予防原則」アプローチでは「因果関係の科学的証明がなくても、深刻なリスクが考えられる場合には、事前に予防措置が取られなければならない(p.24))」。従来とは異なり、はっきりと因果関係や影響が示されていないリスクに対しても起こりうるならば事前に防止しようと心掛けなければなりません。今度は指導法Bを考えましょう。指導法Bもこれまで教師によって使われていました。しかし、ある教師が「これを続けたら子供たちが後で困るのではないか」と言い出した。過去の研究論文を探してもそのような記述はなかったが、教師は指導法Bが起こしうるリスクを回避するために、自ら対応策を求めていった。

Aの例では、教師は「言われたから対応する」のに対して、Bは「言われなくてもやる」という特徴がある。これこそが両者を決定づける特性の一つである。(もちろん前者の方が客観的で、後者は主観的という点も指摘できますが。)

■ リスク社会における授業構想


上で述べたようなリスク社会においては、授業や教材研究の営みも変わってきます。


教材研究では、「事実(Fact)と、判断(Judgement)もしくは価値(Worth)の二つに仕分ける(p.31)」重要性が指摘されています。これは、以前国語教育に関する記事でも紹介したが、現代文であればある文章のうち、客観的事実と主観的判断に整理して読むことにあたります。読みでは、客観的な部分は正しく理解する読み方、主観的判断に対しては、読者として賛成できるかどうかの評価を下すことが求められます。

従来は、「特定の解釈を押し付けられ(p.152)」たり、「一方の見解だけを採用し、その結論にそった教育が行われ(p.114)」たりしてきました。

学校と教師は、最終的結論を出したがる。結論を明示しないと教えたことにならないなどと言う人までいる。簡単に決着がつく事柄ならそうしたらよい。しかし、ここで取り上げている事柄はそう簡単に決着はつかない問題であり、その結論は社会的・政治的問題である可能性も高い事柄である。これを行政や学校、教師が結論として提出することは、子供自身が判断する自由権の侵害となる可能性がある。(p.33)

これから求められるのは、児童・生徒一人ひとりが価値判断を下すことができる環境づくりです。

そうではなくて、集められた知やデータから子供たち一人ひとりが結論を出してみたり、複数の結論の前で考え込む経験をつくり出すことが重要なのではないか。そういう役割を果たす時に、教師はウソを教えることから脱出することができる。そこに思慮深い子供を育てる教育活動が生まれているのではないか。(pp.34)

そのためには、教師は児童・生徒の価値判断に十分なデータや材料を用意することが必要でしょう。たとえば、自然に関する授業を行うときでも「人間側」から考える自然(西洋的自然観)に関する文章のみを読ませて価値判断をさせても、児童・生徒の判断は一方に偏ったものとなるかもしれない。むしろ“対立”(この言葉は本書のキーワードの1つだと思うが)を見出させるために両極のデータを提示することが望ましいはずです。そこで、「自然側」から考える自然についても提示することで、対立の構図を学習者に理解させ、判断を行わせるのも良いのではないでしょうか。

本書では原発問題について、従来の教育では1つの考え方に導くような教え方がなされていたことを批判しており、代案として子供たちとともに新たな可能性を探るような授業展開例が示されています。「何ミリシーベルトなら安全だろうか」といった小さな議論ではなく、「原発の功罪を認めたうえで、これからの望ましい在り方は何だろうか」といった建設的な議論を行えるようにデザインされていました。


■ 心にしみる学び


・対象認識と関係認識

学校授業(特に教科教育)の欠点として、「取り上げる事柄が子どもの生活と直ちにかかわりの深い事柄に見えない内容も多い(p.133)」ことがあります。授業ではこう習ったけど、自分には関係のないと思わせてしまえば彼(女)らの深い学びはあまり期待できない。筆者は、「対象認識」「関係認識」という概念を援用して、以下のように心にしみる学びを示しています。

人の認識には、対象認識と関係認識とがある。[...]学びが成立するとは、対象に関する認識を形成することであり、同時に対象と学び手との関係認識を作り出すこと、この二つが生まれることである。 
対象認識は、モノそのものに関する認識だから分かりやすいであろう。 
他方、関係認識とは、その対象と認識主体とのかかわりに関する議論である。(p.123)


言い換えると、対象認識は学習内容のことであり、関係認識とは学習内容と学習者のつながりでしょう。たとえば不定詞の名詞的用法について理解(対象認識)し、「これを使えば将来の夢について語ることができるな(関係認識)」と思うこともあるでしょう。小学四年生の地域学習で宮島杓子の伝統や課題を知り(対象認識)、今後の宮島杓子はどうなるかの評価や宮島杓子の伝統に自分ができることの探求(関係認識)をすることもあるかもしれません。このように、学びにおいては両者が常に存在することになります。

教科におけるよい学びとは、「対象認識と関係認識の二つが必要(p.125)」であり、「関係認識の再編を期待しつつも、それは子どもに委ねることでよい(同頁)」。したがって、対象認識のみでとどまり、学習者にとって必要性や関係性を感じさせなければ無駄な知識ととらえられてしまうかもしれないし、逆に関係認識のみを重視するだけでは知識が身につかない。関係認識を変えようと躍起になると行われがちなのですが、家庭科などで「整理整頓」の学習を終え、「さあ、家でも整理整頓をしましょう」とワークシートを配布して、“無理やり”整理整頓を家で行わせることである。(自分もこのような指導案をつい先日作っていた・・・。)このような学びでは、本当に整理整頓が子どもたちの心に染みついているのだろうか。無理にやらされているのでは、単元終了後には元に戻るかもしれません。

むしろ、整理整頓について学習し、その関係認識形成は子供たちに“任せる”ことで自発的に整理整頓を行うのを待つのも必要なのかもしれません。これが「子どもに委ねる」という意味なのでしょう。


・心に染みるとは?

心に染みるは以下のように定義されます。

心に染みるとは、共感する(反発する)という行為や精神活動として捉えることができる。(p.127)
「私」(教師と子ども)が、対象である他社の中に「私」と「あなた」を見つけ、さらに語りの向う相手(教師は子ども、子どもは教師と他の子どもたち)とを意識化する時である。そんな時に、内的な対話が生まれ、世界を広げながら自己を捉え返す学びとなり、「私」を育てる。(p.128)

では、どのように心に染みる授業が作れるのか。筆者は以下の3点を指摘しています。

(1) ベースとしての真理と事実 
(2) 言葉の意味集め 
(3) 他者の中に自己を見る

先ほどの概念を用いれば、(1)は対象認識、(2)-(3)が関係認識の形成といえるでしょうか。そもそも学びには内容がありますので、(1)で真理・事実を追求します。(当たり前のようですが、ゲーム重視の授業では事実や真理の確認を抜きに「君はどう思う?」と考えさせることがあるのではないでしょうか。)
事実を追求する中で、学習者は「言葉」の意味のあいまいさに気付くはずです。原発であれば「ただちに影響はありません」「想定外」(p.129)といった言葉が多く用いられていましたが、これらの言葉は発話者・受け手によって意味が異なるかもしれません。

私たちは、だから、言葉の意味について事実を確かめ合うこと、どのような意味で理解しあっているのかを互いに確認し合う方法に熟知する必要がある。念のために述べれば、言葉の意味を確かめ合うとは、辞書を調べることを意味しない。自分たちにとっての言葉の意味を探すということだ。[...] 
言葉には、①言語記号の表層の語義と②語義に対応する現実・事実があり、③その発話行為によって生まれる社会的機能がある。電力不足という記号の場合、①電力が足りないという語義と、②足りない現実があるかどうかがまず問題となる。次に、その言葉を発することによって、③原発が必要だと思わせたいという社会的機能があるかもしれないということだ。(p.129-130)

先ほどの「ただちに影響がありません」も、「安心しろよ」というメッセージなのか、「ただちに、ではないということは、いずれ影響があるのか」という暗示なのか、学習者によって受け取り方も様々です。これらの「自分たちにとっての言葉の意味を探す」という作業を行い、各自の意見を交流することこそが、「言葉の意味集め」に他なりません。

(3)の「他者の中に自己を見る」は、言葉の意味集めの最中に起こりうるもので、各々にとっての言葉の「意味」を交流する過程で、他者の意見に共感しあったり反対したりすることを指します。意見交流や感想文作成などが具体的にあげられますが、相手の意見を知る・聞くだけでなく、「この人はこう考えているんだ。自分もそう思う」といった自分自身の考えも確認しながら聴くことで成立します。

(1)-(3)を通じて、児童は「ただ単に原発について学んだ(対象認識のみの学び)」段階から、「原発は~~~だと思う(対象認識+関係認識における学び)」へと深化させていくのでしょう。 




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確かに、社会教育の原理が示されており、本書通じて原発に関する教育の見直しがされていますが、その根底には「決まった答え1つのみではなく多様性を認める教育」や「子ども自身が学習内容との関連を見出す」という哲学があるのだと思い、それは他の教科にも当然いえることなのだと思います。

改めて、他教科から学ぶ意義を思い知りました。

さらに、今日のリスク社会において、これまでは考慮されなかった軸で授業作りについて考える必要も今後はあるのかもしれません。大切なのは児童生徒に判断させること、と本書では述べられていましたが、これは推論発問・評価発問という名目で生徒の意見を引き出す英語教育にも他人事ではないのかもしれません。知らず知らずのうちに教師が用いる教材や、発問の仕方1つを取っても彼らの考え方に影響を与えるかもしれないし、特定の解釈を押し付ける教育をしているかもしれません。そういった意味で英語科が本書から学ぶ点は以下にあると思います。
(あくまで英語リーディングに限定しています。)

・生徒が題材に対して判断をする機会を与える。
・特定の解釈を押し付けないで自由な回答をさせる。
・多くの教材に見られる「政治性」を教師が見抜き、授業づくりの際に考慮する。(どう考慮するかについては、今の段階では答えが出ていません。)

また、フレイレの識字教育、海辺のカフカや暗夜行路の解釈など、興味深い話題も載っていて、それらについてものちのち調べてみたいな、と思いました。(海辺のカフカの議論は数ページでしたが、解釈の相違に関する絶好の例だと思います。そういった意味では以下の書籍は、絶対に面白いだろうなと思います。)

村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する (平凡社新書)
村上春樹論 『海辺のカフカ』を精読する (平凡社新書)小森 陽一

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いつもながら、まとまりのない記事となってしまい恐縮です。

さて、あと少しの夏休みをエンジョイしましょうかね(^^)♪♪ご機嫌よう~!

2013年8月7日水曜日

初等教育まとめ(3)~理科・4QS:仮説思考型授業の原理~

なんとか院試願書を完成させられてホッとしています。(現在、締め切りの15時間前。)我ながら間に合うかどうか冷や冷やしていましたが、まぁ良かった。笑
特に今回は日本語の文章の書き方がまだまだ体得できておらず、自分の文章を推敲しながら自己鍛錬せねばと実感しました。このブログで自身が成長できれば良いなーと思います。


さて、初等教育についてのまとめ、第三弾です!(切り替え早ッ!)

いつも英語教育をやっている自分は、他教科に関しては全くの素人であります。
したがってここでまとめていることは的外れであったり、ずれていたりすることが多々あるかもしれません。というか、多々あります!そのような場合は、ご遠慮なくご指摘頂ければ幸いです。特に、英語科以外の方が本記事をご覧になっていらっしゃれば、是非ご意見寄せて頂ければ幸いです。
このブログで初等についてまとめを行うことは、(おそらく)英語教育専攻の方が多くご覧になっているので、他教科から英語科に活かせる部分を発見するのにもつながると期待しています。
時間を見つけて、できるだけ初等のまとめは今後も更新していきたいですね。

今回は、「理科教育」です。


理科教育法─理論をふまえた理科の授業実践─
理科教育法─理論をふまえた理科の授業実践─山田 卓三 秋吉 博之

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■ 自分にとって、「理科」とは?
とりあえず自分が受けてきた中では、あまり良い思い出がない教科です(苦笑)。兄は生物部に所属していて、植物や動物に詳しく、化学や物理もいつも上手に説明してくれます。(その兄の反動で、自分は文系になったのかな、と考えてしまうこともよくあります笑)

そんな兄は普段生活をしている時もよく理科の話をしてくれます。例えば、アイスコーヒーに牛乳を少し入れたとき、「待て。まだかき混ぜるな。」といってずっと見続けていました。僕もそのまま見ていると、牛乳が勝手にコーヒーに混ざっていくではありませんか。

「これが対流だよ。」


兄の一言で、それまで用語で無理やり覚えた「タイリュウ」が実感を伴ったものとなりました。これが、自分が理科に少し興味を持ったきっかけでもあります。(ただ、この経験をもっと早くにしていればよかったのですが、残念ながら私は当時既に大学3年生。兄よ、もう少し早く言ってくれれば・・・笑)



■ 原体験と理科

この経験が示すように、理科嫌いの少年でも実感を伴えば自然現象に十分興味を持ちうるものです。今回初等理科の勉強に用いた本書では以下のように説明されていました。

自然の事物や現象を認識する場合、まず、その実物や現象に触れてからそれに関する知識を学ぶと認識や理解が深まる。ところが、情報化時代といわれる現在は実物を知らずに、知識だけが豊富になっている児童生徒が多くなっていると思われる。(p.6)

例えば、私が中学受験をした時に「月の満ち欠け」について学習しました。月と星は割りと得意な領域だったので、得点源だった覚えがあります(記憶のすり替えがないことを祈りますが。)しかしふと空を見上げて月を見ても、それが上弦か下弦かよく分かっていなかったりする。しかし、よくある問題文と図があれば、記号で「上弦の月」と答えられる。「知識だけが豊富になっている」とはこのようなことではないでしょうか。

そうならないためにも、「原体験」が必要になります。原体験は「生物やその他の自然物、あるいはそれらにより醸成される自然現象を触覚・嗅覚・味覚をはじめとする五感を用いて知覚したもので、その後の事物・現象の認識に影響を及ぼす体験のこと(p.7)」と定義されています。


理科の学習の対象となる自然の事物・現象に興味や関心をもち、積極的に探究しようとする姿勢は、好奇心や感性によりもたらされるものである。したがって、原体験は、単に自然認識を深めることだけを目的としたものではない。原体験は好奇心等、人間として生きる力を身につけさせることを目的とした根源的な体験であり、教育の視点でみると360°の方向性をもったものである。[...]そして、体験に裏づけされた知識や概念は生きて働く力になると共に、判断力、表現力、思考力、創造性を豊かにすると考えられる。(p.8)

いかに科学的思考力をつけようとしても、原体験がなければ抽象論となり実感が湧かずに親しみが湧かない・・・。だからこそ、原体験→探究・科学的問題解決という流れが重要になります。
仮に「電流」という単元を扱う場合にも、まずは豆電球が明るくなったり暗くなったり、モーターカーが速く走ったりゆっくりになったりするのを目で見たり触ってみたりして「感じる」ことが必要となって、「なぜだろう」という探究活動へつながり科学的思考力の育成が始まります。



■ 4QS

探究活動のためには、仮説を立てて検証するという作業が必要です。もちろん「では仮説を立ててみなさい」といわれてもすぐに立てられる子ばかりではありません。以下に示すのはCothoron. j. hらによる"Four Question Strategy"(小林氏はこれを頭文字をとって4QSと呼んでいる)で、子どもたちが現時点で持っている知識や経験から仮説を立てさせる手立てです。

4QSは以下の4つのステップから成り立つ。

STEP 1 変化する事象を従属変数として簡潔に記述する
STEP 2 従属変数に影響を及ぼす独立変数に気づかせる
STEP 3 STEP 2で挙げた独立変数を実験条件としてどのように変化させるのかを考えさせる
STEP 4 STEP 1で挙げた従属変数を数量としてあらわす方法を考えさせる
(pp.16-17)
   
→これらを組み合わせて仮説をつくることができるようになります。

※従属変数と独立変数とは
簡単に説明すると、独立変数は実験者が意図的に操作することで変えられる値である。それに対して、従属変数は独立変数の値を変えることによって変わる値のことである。たとえば、暑い部屋でクーラーの設定温度を25℃, 28℃と自由に設定すると、それにともない部屋の室温も変わる。この場合、私が設定するクーラーの設定温度の値が「独立変数(実験者が操作可能)」であり、実際の部屋の室温は「従属変数(実験者が直接操作はできないが、独立変数の変化にともなって変化する)」といえる。
(あまり良い例でなかったらすいません。ご指摘ください。)

これら4つのSTEPを経ることで、児童が自力で仮説を立てることができるようになります。




例えば「直列つなぎと並列つなぎの違い」という単元に当てはめて考えると以下のようになるのではないでしょうか。

学習課題:モーターカーを速く走らせるにはどうしたら良いのだろう。
STEP 1 : モーターカーの速さ
STEP 2 : 電池の個数?, 配線の長さ?, 電池の種類(単一, 単三など)
STEP 3 : 電池1, 2, 3個,配線 2, 4, 8cm,単一, 単二, 単三
STEP 4 : 速度(m/s),10mを走りきる時間(秒)など
立てられる仮説(例)
・電池の個数を1, 2, 3個と増やすと、モーターカーが10mを走りきる時間は短くなる。
・配線の長さを2, 4, 8cmと長くしていけば、モーターカーが20mを走りきる時間は長くなる。


ただ「モーターカーを速く走らせるにはどうしたら良い?」という発問ではアイデアが思い浮かばない児童でも、この4QSを用いれば具体的数量に表す方法や結果に影響を与える変数の存在といった特定の箇所について考えれば良いので、より事象を単純にとらえられるという効果があります。そして仮説を立てることでそれを検証したいという動機付けになり、実験に対する関心も高まると期待されます。

ただし、このやり方では間違った仮説をたててしまうのではないかという反論もあるかもしれません。(実際に配線の長さに関する仮説は誤り。)だが、これも「予想をして確かめて結果をまとめる」というプロセスをたどることに変わりはなく、科学的思考の育成には十分寄与するものと考えられます。(もちろん実験後には他班との交流により真実を知る機会は確保される必要があるのは当然です。)



【感想】
今回は、英語教育に応用できる余白はあまり見られなかった・・・。(まあ技能科目ですし、あまり独立変数・従属変数という考えは用いないのでしょうか。)なにか良いアイデアがあれば、英語科の皆様お願いします。

ちなみに、卒業論文のマインドマップ代わりにも使えるのかな?と感じました。
例)英語の文章を速く読ませるにはどうしたら良いのだろう?
STEP 1 : 読みの速さ
STEP 2 : 文章中の未知語数,読み手の英語学習年,留学年数
STEP 3 : 文中の未知語=χ/300語,読み手の英語学習=y年,留学=zヶ月
STEP 4 : 速度値(wpm)
→仮説:文中の未知語が少なく、読み手の学習歴が長ければ、速読値は大きくなる。

さて、どうでしょうか。このような関連の論文を読んだ経験が少なく、仮説の立て方があっているかすら自信がありませんが、何か参考になれば幸いです(汗)


さて、明日はオープンキャンパス!頑張りましょー!(夏休み、早く来い。涙)

2013年7月21日日曜日

初等まとめ(2) ~社会科・知識の構造図~

最近は、小学校の授業づくりを初等コースの方々と行っています。普段中・高の授業をするときとは異なった新鮮さを味わっています。メンバーも熱心な方が集まっており、とても充実しています。特に児童の視点に立つという点が初等の方は上手だと思うので、自分も彼らから多くを学びつつ、逆に中等教員養成課程で学んだ自分も、出来る限り提供できるよう頑張りたいと思います。


授業作りの話し合いの中で、特に難しいと感じたのが社会科でした。これは、自分の知識や経験不足でもあるのですが、社会の授業はひたすら暗記というイメージが強かったためでもあります。しかし、社会科の指導要領には「暗記科目」のような文言は全く含まれていません。そこで、『社会科学力をつくる“知識の構造図”-“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント-』を読んで学んだことを、いかに記します。特に、英語科の方は「この発想は英語科では使えないか」という視点で読んで頂けたら幸いですし、自分からも一つの型として、最後に提案したいと思います。

 ※本記事における「社会科」は特に断りのない限り、「小学校社会科」を意味します。




■ 「社会科」とはどのような科目か


栗田哲也『数学による思考のレッスン』でも紹介されている通り、ある概念を理解するのに類似概念との差異を考えることは重要です。まずは「社会」を理解するために、同様に小学校で教えられる科目である「算数」や「国語」との比較を行います。

国語科や算数かは文字や数字、記号などを扱うことから用具系の教科と言われえている。これに対して、社会科は従来から内容教科だと言われてきた。(p.13)

例えば、国語科では「言語についての知識・理解・技能」や「話す・聞く能力」などの言葉が示すように、言葉という道具を用いて言語活動を行います。おそらく中等教育の英語科も、同様に用具系の教科と言えるでしょう。また、算数も「文字」や「記号」を習いますが、これらはあくまで諸問題を解決するための「手段」になります。用具系の教科では手段を児童に身につけさせるのに対し、社会科は内容そのものの習得を目指しています。したがって、その内容が何か分からなければ教えることも難しいはずであり、英語科とは本質的に異なっているとも言えます。また北氏は以下のように社会科を定義しています。

社会科は、おとなが営んでいる社会を対象に、「これまで」と「いま」の社会のことを学び、「これから」の社会を考えさせる教科である。(p.14)

「これまで」に関して考察する場合は歴史的視点を活用し、「いま」を考えるなら地理、経済、政治などの視点を使って、社会を学びます。そうすることで、社会的な見方(歴史的見方、地理的見方、政治的見方…)そのものの獲得に繋がり、「これから」の社会に関して、課題の解決、児童自身の意見表明などの学習へとつなげられます。


■ 調べ学習の落とし穴


社会科の学習指導要領には、「調べ」「考え」「表現する」という言葉がよく用いられます。PISAを契機に提唱された新しい学力観の一つである「思考力・判断力・表現力」に拠るのでしょう。現場では、調べ学習を通してこの3要素を育成する動きが強いようですが、北氏は以下のように警鐘を鳴らしています。

「自転車で好きなところに自由に行きなさい」と言ってみたところで、自転車に安全に乗ることができなければ、自転車を楽しむことはできない。事前に安全な乗り方や交通ルールを指導しておかなければならない。[...]調べ学習は確かに子どもの学習態度を主体的にさせるという面がある。しかしそこでは子ども一人一人の主体性を尊重するあまり、どの子どもにも習得させなければならない知識の抜け落ちが生じる心配がある。すでに扱い知っているはずのことが身についていないということは、多くの教師が体験している。このことは、問題解決的な学習や調べ学習の落とし穴であるといえる。(p.20)

自転車に乗るために交通ルールや乗り方を学ぶ必要があるのと同様に、調べ学習の前には調べ学習のやり方・基礎的な知識も必要になります。この前段階を飛ばしている場合は、基礎的な知識をクラス全員が共有できずに、学力低下に陥る危険もある。実際に本書でも、日本の面積・総人口・首都を知らない小学生が多いという問題が紹介されている(p.23)。見栄えの良い調べ学習を優先して、基礎知識を飛ばしてしまうという事実は、言語活動を重視するあまりパターンプラクティスや文法の軽視をする他教科を彷彿させる気がします。

■ 社会科で習得させる知識の分類


上では、知識の重要性が示されたが、その知識もいくつかに分類される。例えば、学習内容に関する知識と学習方法に関する知識という二項対立の構図を考える。社会の事象について知ることも重要ではあるが、生涯学習する態度を育成しようとしている今日、「どうやって学ぶか」という方法を知らせることも必要であろう。先の2つは、どちらも同じように大切である。

さらに内容に関する知識をさらに3段階に分けると「用語や語句」、「具体的な知識」、「概念的な知識」に分けられる。これらが知識の構造図の骨組みにもなります。

用語や語句とは、地図記号や県庁所在地のように、習得していないと「社会科の学習のなかで資料を調べても理解が深まらな(p.88)」かったり、「日常生活において支障をきたす(同頁)」知識を指します。誤解を承知で言えば、暗記させるべき用語がここに入ると思います。(従って、受験生が暗記カードでせっせと覚えているものは、全て「用語や語句」に入り、本来社会科で学ぶべき知識の一部となります。)用語や語句は、以下の具体的な知識、概念的な知識を学ぶのに必要な条件です。

具体的な知識は「調べて発見させる具体的な知識」(p.84)と言うことができる。例えば、「学校の北側には田んぼがある」や「学校の西側には川がある」は、調べることにより分かる知識です。これらは具体的であるが故、普遍性がありません。現にA学校の北側に田んぼがあるからといって、全ての学校の北側に田んぼがあるわけではありません。「頼朝は御恩と奉公の関係を用いた」も、室町時代には封建体制は倒れており、全時代に共通するものとは言えません。ところが、普遍的な知識を得るためには、小学生にとっては通るべき道なのです。

抽象的な知識は「社会的事象として目に見える状態のものではなく、目には見えないものである。調べたことを基に「どうしてだろうか」とか「どういう意味や役割をもっているのだろうか」などと考えることによって導き出される(p.76)。」例えば、先ほどの「
学校の北に田んぼ」「西に川」という具体的な知識をつなげれば、「田んぼの近くに川がある」という一段階昇華された知識になります。では、なぜ田んぼの近くに川があるのかと言うと、川から水を引くことで田んぼで稲を作ることができるからです。また、田んぼはなぜ川から水を引く必要があるかというと、生計のためにもできるだけ多くの米を収穫し出荷する役割を担っているからです。ここまでくると、ただ調べるだけでは分からない「抽象的な」知識になります。現に田んぼや川を見てるだけでは全ての児童がここまで考え付くとは限りません。(だからこそ、初めて協同学習が必要なのでしょう。)

バラバラに書いてしまいましたが、これを以下のピラミッドに直してみると考えやすいかと思います。

右の矢印にも示した通り、教師が教えるべき箇所と児童が発見すべき箇所を分けると、議論がしやすいように感じます。「都道府県の名前」や「地図記号の形」などは児童に考えて発見させるよりも、教師が提示する方が効率的だからです。(もちろん、地図記号の形を予想させるといった学習活動はありえますが。)


■ 知識の構造図


肝心の知識の構造図については、あまり述べてしまうと本書の内容を大幅に引用してしまうことになってしまうので控えます。簡潔に述べると、授業で学ばせるべき知識を上の3分類にかけて、その関係性を示したものとなります。
先ほどの例を用いて、一つ知識の構造図を作成してみたいと思います。

手順は以下の通りです。(p.80~90)

①小単元名と指導時数の設定
②小単元の目標の設定(学習指導要領と照らし合わせる)
③評価規準の設定
④教材観、児童観、指導観
⑤中心概念(概念的知識)の抽出
⑥中心概念を支える知識(具体的知識)を整理する
⑦具体的知識の順序性を考える
⑧具体的知識に必要な語句・用語レベルの知識をリストにする
⑨完成~!

このような知識の構造図を利用した取り組みは池野・金・福井(2012)「地域教材と知識の構造図を用いた社会科授業づくり. ― 小学校における社会科授業構成研究(1) 」があります。また、本書には多くの実例が掲載されているため、是非一度手にとって読んでみてください。


社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント
社会科学力をつくる“知識の構造図”―“何が本質か”が見えてくる教材研究のヒント北 俊夫

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■ 「知識の構造図」の英語科への応用


ここまで読んでいただき、英語科の方はどのように感じられましたでしょうか。
冒頭で述べたとおり技能重視の英語科と内容重視の社会科が根本的に異なるわけですが、私は知識の構造図もどきのようなものを英語科で活用する余地は十分に残されているのではないかと思います。

例えば、英語科では言語材料(文法や語彙など)を習い、それらを活用して言語活動(コミュニケーション活動)を行うという流れがあります。上で示唆した通り、見栄えの良いコミュニケーション活動が重視されすぎて、言語材料がおろそかになる可能性も否定できません。そこで、まずは何を教える必要があるのか、内容面で整理するためにも以下のような知識の構造図が活用できます。(もっとも、英語科の場合は技能面も強いので、「知識・技能の構造図」と呼ぶほうが適切かもしれません。)

では、中学二年生の不定詞の単元で、一度「知識・技能の構造図」を作ってみましょう。

(例)
①単元「自分の将来の夢に関するスピーチをしよう」
 時間:5時間
②目標
 ・スピーチの際、聞き手とアイコンタクトを取る。
 ・自分の将来の夢に関するスピーチをする。
 ・相手が話すスピーチの要点をメモを取りながら理解する。
 ・to不定詞の3用法の違いを理解する。
③評価規準
 ・スピーチの際、聞き手とアイコンタクトを取っている。
 ・自分の将来の夢に関するスピーチをすることができる。
 ・相手が話すスピーチの要点をメモを取りながら聞くことができる。
 ・to不定詞の3用法の違いを理解している。
④省略
⑤最終目標:3分程度の将来の夢についてのスピーチを行う。
⑥最終目標を達成するために必要な内容・技能
 ・不定詞を用いた文を作ることができる。
 ・スピーチに必要な表現を知る。
 ・スピーチを聞きながらメモを取って理解する。
 ・原稿を作成する。
 ・練習を行う。
⑦省略
⑧⑥を達成するために必要な知識・用語
 ・不定詞の名詞的用法/副詞的用法/形容詞的用法
 ・toの後には動詞の原形がくる
 ・イントロ・ボディ・コンクリュージョン
 ・Today, I'd like to talk about my dream.
 ・I want to be a ~.
 ・My dream is to be a ~.(以下略)

⑨知識・技能の構造図




このような作業は、指導案作成の際にほとんどの先生がされていることと思います。しかし、実習生として昨年作業をしていると、単元全体として本時は何をしなければならないか、目標は決まったが具体的にはどこまで教えるべきか、という点の議論が曖昧なことも多かったです。だからこそ、具体的な「用語・語句」まで書き出し、身につけさせるべき知識・技能の構造化を図ることは、英語科にも必要な作業のように思えました。

英語科は確かに技能教科としての側面が強いかもしれませんが、このような内容教科から学ぶことも多いのではないでしょうか。




2013年7月5日金曜日

初等国語教育のまとめ(1) ~PISA型読解力育成の手立て~

英語教育に従事する者として、国語教育や日本語教育に目を向けることは大変重要だと感じます。これらは「言語教育」というカテゴリーに分類されており、共通部分も少なからずあるでしょう。
せっかくなので、小学校の国語教育に関するまとめを載せておきます。以前教員採用試験対策の勉強会で担当したこともあり、主にPISA型読解力育成の手立てを中心にしています。(テキストタイプは説明文。)



正確に言えば、OECD「生徒の学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment:PISA)です。日本は2000年から参加しています。国語教育に最も関連があるのは、PISAが定義した「読解力」でしょう。

「読解力とは、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力である。」

以前、教採勉強会で担当をさせて頂いた時に「PISA型読解力を養うために、あなたが英語教師としてできることは何ですか。」という問いを出しました。これに対する参加者の反応は以下のようなものがみられました。

・読むものを与えるだけではなく、自ら読みたいもの・読む必要のあるものを探させる。
・読書指導を行う。
・技能の統合を目指す。(例:読んだものについての批評を書かせる、読んだ文章の要約を書かせるなど)

英語教育では、第8次学習指導要領改正の際、「技能の統合」という言葉が注目され、上のような意見が出たのだと思います。私は、これらも国語教育に活かせるのではないかと思います。

PISA型読解力を育成するための手立てを上手くまとめたものとして、『国語化教育入門』(長谷川, 2010)があります。ここでは、「読むことの指導」を以下の4段階に分けて論じています。(p.97)

(1) テキストの中の「情報の取り出し」
(2) 書かれた情報から推論してテキストの意味を理解する「テキストの解釈」
(3) 書かれた情報を自らの知識や経験に関連付ける「熟考・評価」
(4) 記述・論述

(1)の「情報の取り出し」では、筆者が何を起こし(提起し)、どのように説き(説明し)、まとめているかを読み取らせます。発問の種類でいえば「事実発問」に分類され、語用論的に言えば文字通りの意味(literal meaning)の段階です。書かれている内容を忠実に読み取り、まとめる段階です。長谷川氏は「どのような説明文の読みも、内容を性格に読むことが基本です。」(p.96)と述べているように、この段階をとても重視しています。
PISA型読解力という言葉が持て囃されて、(2)~(4)が重視されれば、(1)が軽視される可能性もあるでしょう。そうすれば、「この文章は何を言っているかよく分かっていないのに、また自分の意見を書かされる」という児童が可哀想に思えます。

(2)は、筆者の説明の仕方や意図を読み取る段階です。特に指導要領では「事実と意見の関係」という部分が強調されているようで、これらを区別させることで「この人はどのような立場で文章を書いたのだろう」と考えさせることにもつながります。

(3)は、例えば「この○行目から○行目の説明はわかり易いか、分からないことはないか」という発問によってスタートします。すると児童は、読んでいてあやふやな部分や気になっていたこと、筆者の考えへの賛成・反対意見を交流することができます。(この具体例については、本書の「イルカの会話」が非常にわかり易いです。ぜひご一読下さい。)

(4)が、(3)で出た疑問点を解決する段階です。その手段は、他の文献にあたったり、インターネットで調べたり、分かりにくい箇所に加除訂正をしたりすることが考えられます。また、本書では述べられていませんが、読んだものについて感想を書くなどの活動もここに入るのだろうと思います。

(1)~(4)を振り返って、「まずは文章を忠実に読む」「その後、批判的に読む」「最後に、まとめる」といった段階が見て取れます。この指導では、教師の発問によって閉じられた読解指導となる危険が少なく、主体的に児童が課題を見つけようとする姿勢にさせることが利点です。その反面、学級の雰囲気によっては、話し合いがうまく行かずに内容の浅い議論となる危険性もあると思います。

改善方法として、以前JALTで報告された「Self-Directed Studyについて(JALTに参加して)」に乗せられているGererald Grow'sの考えも使えると思います。



Gerald Grow's Website
http://www.longleaf.net/ggrow/SSDL/Model.html



すなわち、段階に応じて少しずつ教師から児童へ主導権を渡していくという考え方です。まだクラスが上の指導をするのに十分な話し合いの雰囲気ができていなければ、教師主導の授業も必要でしょう。

最後に、本書から「説明文を読む学習」についてのまとめを引用させて頂きます。上で論じた内容を簡潔にまとめられています。

■ 説明文を読む学習
1、筆者は何をどう説明しているか
全体を読み通し、どんなことが書かれているか
・文字を読む(音読・黙読)
・語、文、段落などの理解
・内容の妥当性について確認

2、筆者の説明の仕方や意図は何か
・何がどのように書かれているか
・事柄(語句 文 全体 キーワード)
・構成(順序 段落 キーセンテンス)
・要点 段落相互の関係
・叙述(事実と意見 文末 事実の吟味)
・要旨
・調べながら読む
・説明方法…語の定義、接続語、文末、文体、図表、題名と事例などの理解

3、筆者の説明はわかりやすいか。筆者は何をどう説明すべきか。
・内容と表現を批評
・感想 批評
→論理…説明相互の論理関係
 呼応関係:問いと答え
 対比関係:時間的対比 空間的対比 内容的対比
 類比関係:事例と一般化 具体と抽象 上位概念と下位概念
 並列関係:空間的な順序 重要さの順序
 因果関係:原因と結果 理由と主張 時間的順序

国語科教育入門―小学校教員を目指すために
国語科教育入門―小学校教員を目指すために長谷川清之

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