2013年6月25日火曜日

生成文法入門を振り返って

昨年10月に教育実習を終えた時、学部の有志6名で文法勉強会なるものをはじめました。趣旨としては英語教師として文法の知識をより深めよう!と、ふんわりした雰囲気で始動しました。

この勉強会では担当が週ごとに替わるのですが、担当は自分がやりたいテーマを選ぶことができます。これまで扱われて来たのはセンター文法問題の過去問演習、翻訳、英文解釈、英語史、メタファー(語彙の意味拡張)などで、バリエーションに富んでいるのが特徴です。その中で自分は「生成文法入門」と題して、これまで4回に渡って生成文法の基礎知識を扱ってきました。以下は、自分が担当してきた「生成文法入門」を振り返りたいと思います。


■ 概要・意図
生成文法をテーマに選んだ理由は、イギリス留学中にチューターから進められた本(The Language Instinct)でXバー理論が登場し、「なんかよぉわからんけど、かっこぇぇ!」と感じたことでした(笑)(まあ、せっかく調べるわけですし。モチベーションはあるに越したことはありません。大概、学習動機などは単純なものです。)これまでのテーマは以下の通りです。



第1回:樹形図を描いてみよう!(Xバー理論、普遍文法)
第2回:アルゴリズム的指導法を考える。(移動、Xバー理論)
第3回:高校英文法を生成文法の切り口で考える。(句構造規則、補文標識、原理とパラメータのアプローチ)
第4回:anyとnotはどちらが先?(C-Command条件、否定極性表現、時制句)



我ながら、参加者に無配慮で行ったなと実感しています。(参加して頂いた皆さんに本当に感謝しています。)また、予め断っておきたいのですが、「生成文法を教えるなんてたかだか数冊読んで程度の学生にできるか?」というお言葉は最もです。しかし、今回は生成文法の基礎知識を使って文法観を拡げることが目的でした。従って、「教えるー教えられる」関係というより、むしろ「(お題を)提供する―思考して吟味する」関係を目指して行いました。なので、専門家でも何でもない分不正確な部分も多かったことは認めます。

■ 教材
使用教材は固定はしていないのですが、参考にした書籍としては以下があります。(Chomskyの原著を読んでいないのは大変なことだと思います。申し訳ありません。)


渡辺明(2009)『生成文法』(東京大学出版)
町田健(2000)『生成文法がわかる本』(研究者出版)
ダニー・D・スタインバーグ(1995)『心理言語学への招待』(大修館書店)
Steven Pinker(2009)"The Language Instinct: How the mind works" (W. W. Norton & Company; Reissue edition)
George Yule(2005)"The Study of Language"(Cambridge)

特に渡辺(2009)には大変お世話になりました。院生の先輩からご紹介頂いた書籍で、とてもわかりやすく日常言語使用と結びつけながら考えることができました。



■ テスト解答・講評

第4回のときに、簡単なテストを行いました。今回出題したのは、以下のような問題でした。

生成文法入門①~④を通してあなたが学んだことを、中学生または高校生に紹介することになった。(彼らは割りと言葉に興味はあるが、難解なメタ言語は勿論学んでいない。)勉強会で学んだ事柄のうち、どれでも良いから1つ選んで、それを面白く、分かりやすく説明せよ。

テストという題目で行ってはいますが、評価をするという意図は全くありません。むしろ、自分の説明でどれだけ理解できているかを知りたかったからです。それに加えて、言語学で抽象的に語られる事柄も、うまく扱えば言語の面白さ・深さを味わう絶好のチャンスとなると私は思います。言語教師として「言語観」は必要なわけで、言語の面白さを伝えられる人でありたいと(少なくとも自分は)思うので、このような問題を作ってみました。(従って、評価基準も採点基準も一切決めておりません。提出した時点で皆さん100点です笑)

以下は私が用意した解答例です。



テーマ:1つの文でいろいろな意味になってしまう?!   対象:中3(男子校) 
よく、英語のテストで「以下の下線部を日本語に直しなさい。」ってあるよね。そんな問題がテストに出ていると、なんだかまるで答えが1つしかないように感じてしまう。すなわち、ある1つの英文は1通りにしか日本語に訳せないみたいに。
でも、実際はどうだろうか。1つ英語の文を読んでみようか。
突然だけど、すごく美人なお姉さんからこんなお願いをされたら、君ならどうする?
“Please paint me without any clothes on”
さて、断るかな?それとも引き受けるかな?
実はこの文は2通りに意味を取ることができる。
1つ目は、without any clothes onがpaintにかかって、「私の絵を、(あなたが)何も着ないで書いてください。」という意味。もちろん、これは恥ずかしいから断るよね。(いや、断りなさい。)
2つ目は、without any clothes onがmeにかかって、「服を着ていない私の絵を描いてください。」という意味。これは・・・まぁ、引き受けるよね笑。(こんなことないだろうけど。)
このように、1つの英文でも複数の解釈ができてしまうんだ。これを構造的あいまい性と言うんだけど、要するに1つの文であいまいな意味になってしまう、ということ。
これからもっと文法を勉強していくと、こんな面白い発見もできるから、私のことは嫌いになっても、文法のことは嫌いにならないでね(笑)
参考文献
門田et.al(2012)『音読指導ハンドブック』(大修館)

まぁ、下ネタですが(笑)構造的あいまい性も言語の複雑性を表す1つの例だと思います。ある英語の文は1つの訳し方しかないと仮に思い込んでいる生徒がいれば、彼にとっては自分の考えを見直すきっかけになると思います。

では、参加者の方の解答を以下に示します。(本人からの許可は既に得ています。)


(1) I君
テーマ:英語と日本語って別のもの?  対象:中3(最初くらい) 
ほい。今日から中3のスタートだね。中学校で2年間英語を学んできて英語が好きな人も嫌いな人もいると思います。英語がきらいな人に日本語とぜんぜん違うからっていう人が要るけど、本当にそうかな。え、先生なんすか?英語と日本語って別じゃないんすか?一緒なんすか?それでは今日は、英語と日本語の同じところ、違うところを明確にしてみよう!
※グループで英語と日本語の違い(同じところ)について話し合わせる。
 予想される答えには、「動詞がある」「母音がある」「文字が違う」がある。
実は、言語の研究の中には、文法に関して全ての言語に共通する部分があるという考え方があるんだ。それを普遍文法というんだよ。みんなの出た答えの中でいうと「主語と動詞がある」が近いものだね。英語も日本語も(隠れている時もあるけど)主語と動詞があるよね。でも語順は利がうよね。いつも口をトリプルアクセルさせて言っているように、英語は語順が大切だ。今年も語順に気をつけて勉強していこう。

【講評】
言語の共通性という点を入り口に、「原理とパラメータのアプローチ」を中学生にも分かり易いように示しているようです。「トリプルアクセル」「え、先生なんすか?」らへんに解答者らしさが表れています(笑)
ちなみに、「日本語にも英語にも主語・動詞がある」については、最近では日本語主語不要論も存在することも併記しておきたいと思います。

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(2) T君
テーマ:全ての言語に共通すること 対象:高1 
そんなことあるんかって思うやろ?
名詞句で考えてみよう。名詞句の中心となる語は……名詞。つまり、"pen"か"ペン"。この2つの場所に注目してみよう。


どっちも一番最初の「名詞句」のところから見たら2つ目にきてるやろ?中心となる語が2つ目にくる法則をXバー理論っていって、これはどの言語にも当てはまるんやで。


【講評】
一番難しかった(と個人的に思っている)Xバー理論を選んでくれたのは、純粋に嬉しかったです。例も分かりやすく、面白いと思います。彼自身がXバー理論の回で感動したようです。
やはり、先生自身が「すごい!」と思ったことは、なんらかの形で生徒にも伝われば嬉しいですよね^^Xバー理論は自分もまだ理解が曖昧だと思うので、お互い新しいことが分かったら情報交換したいですね。




(3) F君
テーマ:文でも句でも言いたいことは1つ!それを見抜け! 
学年があがると文構造はどんどん複雑になっていく。それでも結局言いたいことは1つだ!それを見抜いていけば、難解な文も読めるようになるかも!?例えば、以下の英文があったとする。
"The artists who succeeded best in doing so often produce the most exciting works."
これを分解すると、まず名詞句と動詞句に分けられる。ここでは、"so"までがNP(名詞句)、often以下がVP(動詞句)だ。(区切り方に注意!)これを深~~く見ていくと、それぞれの句の一番大事な部分はartistsとproduceだと分かるね!ここまで考えることができたら、もっと複雑な文でも分かりやすくなるよ!


【講評】句の主要部についてを英文解釈で活かす、という試みをしてくれました。複雑な英文になると匙を投げてしまう生徒も多いと思います。しかし、「結局この長い部分は何が言いたいの?」と考えてみるとはっきりすることもありますよね。(a red pen which my father gave me the day before yesterdayは結局penのことを言っている、といったように。)ちなみに、このような句に注目した指導は既に先行研究も存在しています。(山岡, 2001 "A Proposal for the Instruction of English Phrases: Focusing on the Endocentricity":以下から参照可能 http://hb8.seikyou.ne.jp/home/amtrs/mokuji.htm)こちらもよろしければご参照ください。




これらを読んで頂いてお分かりのことと存じますが、別に生成文法の話を中学生にしてもらいたいという考えは私にはいっさいありません。学習会で学んだことをどれだけ他者に分かりやすく説明できるか、特に自分が面白いと思った点を説明することが重要と思い、このような設問を出した次第です。皆さんの解答を読みながら、「普遍文法」や「句の主要部」といった学習会の主なテーマの部分が伝わっていることが実感できました。(但し、他の周辺部については記述がなかったため、説明方法や資料が悪かったと反省しております。)

改めて、今回の文法勉強会は自分を成長させてくれたと実感しており、主催者のsava君には大変感謝しております。また教採直前にも関わらず参加してくれた参加者の皆さん、参加できなくてもプリントだけもらってくれて復習してくれた皆さん、ありがとうございました。自分にとっても大変良い学びの機会となりました。
また10月から再開できるのを楽しみにしております。そして、興味のある方は(学年の違いに関係なく)ぜひご参加してもらえたら嬉しいです(^^)




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