2014年2月2日日曜日

第1章「翻訳理論とは何か」、第2章「自然的等価」



学部の友人と院の先輩と行っている翻訳学勉強会。次のテクストが「翻訳理論の探求」に決まりました。というわけで、早速まとめ。


翻訳理論の探求
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(注)勉強会用のまとめノートとは別にこの記事を書いているので、引用箇所が少なく、自分の主観だらけの記事になっています。正確・客観的な翻訳学のまとめが必要な方は、本書をぜひ手にとってお読みください。また、過去の記事で重複している内容や、「翻訳学入門」に詳しく載っている箇所についても省略しています。ご了承ください。

第1章 翻訳理論とは何か


■ 個人の「理論づけ」から公の「理論」、全体的な「パラダイム」へ

翻訳者は常に、「翻訳とは何なのか」、「翻訳はどのようになされるべきか」という問いに対するさまざまな考えを検討している。つまり、理論づけをしているのである。 (p.3)
しかし、個人レベルで内的に行われる理論づけが常に公的な理論になるわけではない。翻訳者の間では、議論になることもなく標準的な言葉が受け入れられることがほとんどだ。 (p.5)

→翻訳作業中の翻訳者の信念 (理論づけ) は、対立する主張と肉薄すると、明示化されて「理論」となる。たとえば、ある単語の訳に対して4人の翻訳者が各々の理論づけを述べ合う。

このような類の議論が起こると、翻訳作業中の理論づけが明示的な理論に転換する。その結果、ある理論の方向へ傾くこともあるし、当初は対立していた主張も、より大きな理論の中にあっては共存できるようになるかもしれない。しかし、多くの場合、人は自らの定位置を変えず、議論を続けるのである。 (p.5)

→理論によって思考の枠組みを獲得することで、他者との議論はしやすくなる。しかし、仲正氏が『今こそアーレントを読み直す』で警告するように、「他の物語の可能性を完全に拒絶すると、思考停止になり、同じタイプの物語にだけ耳を傾け、同じパターンの反応を繰り返す動物的な存在になっていく」だろう。

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さらに、理論が翻訳のさまざまな理論について説明していくにつれて、パラダイムが完成する。

ここでのパラダイムとは、さまざまな理論群の根底をなす原理の集合という意味である (Kuhn 1962 が概略した一般的な意味)。特に、全体的な思考、関係性、原理において内的な一貫性や共通する出発点をともなう場合、パラダイムは成立する。 (p.6)

→コンセンサスを得られるのがパラダイムの魅力。等価パラダイムについて議論する者同士であれば、個々の理論づけが異なっていても理解可能である。逆に言えば、パラダイムが異なる者同士の議論は噛み合わない。

英語教育でも「英語は技能教科 (teaching) 」というパラダイムか「言語感覚や人間性を含めた広い意味での教育 (education) 」パラダイムかによって、お互いの議論は噛み合わないだろう。(例:翻訳は英語教育にとって有用か?文学は英語教育の教材足りうるか?以下略。笑。)

さらに「等価のみ」とか「文化翻訳のみ」ではなく、翻訳学でこれまでに主流とされてきたパラダイムを概観することで、複眼的な思考が可能となる。


マンデイの『翻訳学入門』のとき、翻訳理論を一通り学んだと思い込んでいましたが、この「パラダイム」という視点を加えてみると、今までとは異なった理解が可能なのでは?と期待し、早速第二章へ。


第2章 自然的等価


■ 等価とは

等価といっても、原文と訳文の間には必ず不一致が起きている。音の響き、文の長さ、あるいは意味や指示対象など、何かしらのずれが起きる。そのため、等価概念ではつねに階層が意識される。(談話、文、形態、など。)全ての階層で等価が保たれることはおそらくないだろう。
等価といっても、言語そのものが同じということではなく、価値が同じでありうるということだ。 (p.11)
等価の概念はこうした全ての例の下敷きになっている。等価とは、先に定めたように、翻訳はその起点テクスト(のある側面)と同じ価値を持つということである。(p.14)

本書では等価概念を「自然的等価」と「方向的等価」に分類している。第二章で扱うのは自然的等価なのだが、とりあえず言語学の構造主義の台頭の話。(実はここがピムの最も強く主張している部分のように読める。)


■  言語の構造主義的見方では等価(さらに翻訳行為)など到底不可能である

言葉の間にあるこのような関係は、それぞれ異なる「構造」と見なされ、言語とは、そのような構造が集まったもの(つまり、「システム」)と考えられていた。こうして、構造主義 (structuallism) では、事物そのものを分析するのではなく、その関係を研究すべきだと主張された。 (p.17)

例えば、sheep という英語は牛でもなく羊肉でもない生き物としての羊を指している。しかし、フランス語ではmuttonが羊肉も羊も指している。構造主義ではこのような関係を想定するため、言語間の翻訳は不可能と考えた。現に、英語のsheepをフランス語でmuttonとすると、原典になかった「羊肉」という意味が加わってしまう。

仮に上の構造主義の主張を前面に取り入れてしまうと、そもそも翻訳など不可能な営みではないか。しかし、現実的に翻訳者が存在しており、多くの知識が翻訳によって自国に輸入される(特に日本では)。言語学は、意味成分分析や言語使用などを用いて、構造主義へ反論する。


■ 自然的等価

自然的等価は人工的に生み出されるのではなく、自然界にすでに存在しているものを翻訳者が見つけ出すのである。以下はYouTubeで公開されているピム自身の解説の一部と自分なりの翻訳である。



These theories suppose  that translator sees the problem, grasps the value and looks around in the target language and the target culture for the item with the same value. OK? So, the translator looks for an equivalent that exists already somewhere in the language and culture. That would be natural equivalence because the equivalence is presumed to exist prior to the act of translating. 
この理論 (自然的等価) では、翻訳者が問題を見つけ、どの価値か理解し、目標言語・文化の中から同じ価値の項目を見つけることになる。つまり、翻訳者はすでに言語や文化に存在する等価を見つける。このような等価は翻訳行為をする前から存在するとされているため、自然的等価になるだろう。(強調は訳者による)
この映像解説は本当に分かりやすかったので、ぜひご覧ください。(それにしてもひどい訳↑w)


■ ヴィネイとダルベルネの一般的手順 (procedures)

大まかな説明は「翻訳学入門」にもあったが、本書では「韻律効果 (prosodic effects)」も概説している (pp.25-26) 。

・拡大化 (amplification)・・・同じ考えを表現するのに訳文が起点テクストより多くの単語を使うこと。
・希釈 (dilution) ・・・拡大化が必須であるとき。
・縮小化 (reduction) ・・・拡大化の逆
・明示化 (explication) ・・・基点テクスト中では暗示されているにすぎない明細を翻訳が提供すること
・暗示化 (implication) ・・・明示化の逆
・一般化 (generalization) ・・・特定の言葉が、より一般的な言葉に訳されること。
・特定化 (particularization) ・・・一般化の逆

ここで重要なのは、拡大化―縮小化、明示化―暗示化、一般化―特定化がそれぞれ逆になっていること。それこそこれらが自然的等価であることを示している。というのも、もしも方向的等価であれば逆概念は生まれ得ない(方向的等価は一方通行だから)。

→ここから、「比較のための第三項」「意味の理論」などが紹介されるが、詳しくはJuliane House (2008) の記事参照。

■ 自然的等価への反論

もちろん自然的等価は全て否定されるわけではなく、構造主義の時代に翻訳の存在を擁護した点は認められるべきだろう (pp.33-34)。しかし、自然的等価に対しては多くの否定的議論も存在する。そのうち代表的なものに、ホーンビーの「 自然的等価は存在しないシンメトリーを前提としている」という反論がある。つまり言語間翻訳という変換に関して、どのような代数 (個別言語) を代入しても不変 (同じである) という言説である。自然的等価理論者全員がそのような前提を持っているわけではないが、確かに「全ての言語は同等の表現力を持つと想定する傾向がある」(p.35) らしい。


ピム自身は等価を「近年のパラダイムと並んで、また、それらのパラダイム内においても重要な位置を占めるに値する (p.12) 」と述べている。方向的等価では自然的等価の欠点を補いつつ新たな理論を構築していくと考えられる。




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