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2013年10月17日木曜日

千住淳(2013)『社会脳とは何か』新潮新書

脳科学では最近、「社会脳」というのが大きな話題になっているようです。卒業論文のテーマ選びの際、自分が「心の理論」について調べていたら、指導教員の先生から社会脳に関する書籍をお貸し頂きました。

それ以来、テーマ変更で翻訳論を勉強してきましたが、今でも社会脳や心の理論は興味ある分野であり、ちょうど本書が最近刊行されたので、手にとって見ました。


社会脳とは何か (新潮新書)
社会脳とは何か (新潮新書)千住 淳

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『社会脳とは何か』というタイトルですが、本書では以下の2点が主に述べられていたと思います。

1. 社会脳研究のこれまで
2. 研究者としての姿勢

タイトルから推測して、社会脳入門のような内容かと思っていましたが、どちらかと言えば、社会脳に関して著者が研究された実績についてがまとめられています。(もちろん社会脳の解説も最初にまとめられていますが。)
著者自身は自閉症児や赤ちゃんの社会性の発達などを主に研究されており、それらの紹介を通して社会脳に関する現在の研究の最先端を伺える構成になっています。
もちろん研究内容も面白かったですが、私はむしろ、研究者としてはこうあるべき、といった研究観の部分を非常に興味深く読ませて頂きました。

簡単ですが、以下にまとめを載せます。今回は特に、自分が「へぇ~」と思ったことを中心にしています。


1. 社会脳研究のこれまで


社会的な機能が脳に分化していることを進化論の立場から説明するために立てられた社会脳仮説において、社会脳は初めて登場します。たとえば人間関係を把握したり、他者から学んだりといった社会的な活動は、得意な人、苦手な人がいます。また、自閉症で他者意識を持つのが難しいと思う人もいます。このような変種を説明するのに、脳の中の「社会脳」という場所を仮定して研究していきます。社会脳は、生理学者のレスリー・ブラザーズが顔や他人の動きに反応する脳の部分をまとめてSocial Brainと名づけたことから研究対象となります。

筆者が紹介されている自身の研究を紹介すると、思いっきりネタバレになってしまうので、ここからは自分が「へぇ~」と思った「人の目」に関する部分を紹介していくことにします。

人には白目と黒目の部分がありますが、実は白目を持つのは人間のみのようです。確かにサルとかも黒目だけですね。ちなみに、小学生が描いている絵の中には、白目を持つネコなどもいますが、あれも厳密にはおかしいわけです(って、厳密すぎますね笑)。

では、なぜ人にだけ白目があるのか。以前参加した未来授業でも、このような話題が出ました。その時長沼先生は、目線を伝えるためだ、とおっしゃいました。人の場合は誰を見ているか、というのもコミュニケーション上非常に重要だから、白目が発達したのではないか、というもので、本書もこの立場を示しています(もちろん、「はっきりとはわかっていません(p.100)という留保はついています)。

確かに目線によってウソを発見するというドラマも昔見た覚えがありますし、NLPにもそのような手法があります。『こころ』の解説本にも、視線という観点から解釈した『「こころ」大人になれなかった先生』がありました。これらも、人間に白目があるからこそ生まれたのですね。


『こころ』大人になれなかった先生 (理想の教室)
『こころ』大人になれなかった先生 (理想の教室)石原 千秋

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本書では、文化間による目線のとらえ方の違いなどの研究が紹介されています。他にも、自閉症児の推論課題なども紹介されております。このような研究にご興味があれば、一読することを奨めます。



2. 研究者としての姿勢


千住氏は研究における研究者間の協力の重要性を説いているように感じました。たとえば、「巨人の肩にのって(p.188)」というニュートンの言葉が紹介されています。巨人とは、自分の研究領域においてこれまでに研究を積みかさねてきた先輩の研究者(あるいは先行研究)を指します。自分が新たに学問領域を構築するわけでなければ、それまでに近似したテーマを研究した論文を一通り読むことになります。そうすることで、何が分かっているかを理解し、「それならば、これからはこれだけすればよい」と余裕を持つことができます。

以下の言葉は自分にとって特に響いた言葉なので、そのまま引用させていただきたく存じます。

それぞれの研究はまだ“わかっていない”ことを調べるものですので、リスク(不確実性)がつきものです。そこで、1つの研究に山をかけるのではなく、リスクを分散しながら複数の研究を行うポートフォリオ管理が必要になってきます。1つの成功した実験の背後には、いくつもの失敗した、うまく行かなかった実験が存在します。(p.216)

ゼミの先生は「論文はおいしいところだけ見せなさい」とよくおっしゃいます。つまり、自分が研究したこと、調べたことを全て紹介するのではなく、相手に伝えたいこととそのために必要なことだけを厳選して華やかな舞台の上で演出をし、それ以外は全て舞台裏に押し込めておくわけです。

研究は、天才があるとき突然ひらめいて生まれるものではなく、地味で目立たない数多くの研究(者)が長い時間を掛けて積み上がることにより、その延長線上にじわじわと生まれてくるものなのです。(p.217)

自分も謙虚な気持ちで引き続き卒業研究頑張らないと、と思います。(あれを「研究」と呼んでも良いのか?という疑問はおいておきましょう笑。)



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