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2013年7月5日金曜日

初等国語教育のまとめ(1) ~PISA型読解力育成の手立て~

英語教育に従事する者として、国語教育や日本語教育に目を向けることは大変重要だと感じます。これらは「言語教育」というカテゴリーに分類されており、共通部分も少なからずあるでしょう。
せっかくなので、小学校の国語教育に関するまとめを載せておきます。以前教員採用試験対策の勉強会で担当したこともあり、主にPISA型読解力育成の手立てを中心にしています。(テキストタイプは説明文。)



正確に言えば、OECD「生徒の学習到達度調査」(Programme for International Student Assessment:PISA)です。日本は2000年から参加しています。国語教育に最も関連があるのは、PISAが定義した「読解力」でしょう。

「読解力とは、自らの目標を達成し、自らの知識と可能性を発達させ、効果的に社会に参加するために、書かれたテキストを理解し、利用し、熟考する能力である。」

以前、教採勉強会で担当をさせて頂いた時に「PISA型読解力を養うために、あなたが英語教師としてできることは何ですか。」という問いを出しました。これに対する参加者の反応は以下のようなものがみられました。

・読むものを与えるだけではなく、自ら読みたいもの・読む必要のあるものを探させる。
・読書指導を行う。
・技能の統合を目指す。(例:読んだものについての批評を書かせる、読んだ文章の要約を書かせるなど)

英語教育では、第8次学習指導要領改正の際、「技能の統合」という言葉が注目され、上のような意見が出たのだと思います。私は、これらも国語教育に活かせるのではないかと思います。

PISA型読解力を育成するための手立てを上手くまとめたものとして、『国語化教育入門』(長谷川, 2010)があります。ここでは、「読むことの指導」を以下の4段階に分けて論じています。(p.97)

(1) テキストの中の「情報の取り出し」
(2) 書かれた情報から推論してテキストの意味を理解する「テキストの解釈」
(3) 書かれた情報を自らの知識や経験に関連付ける「熟考・評価」
(4) 記述・論述

(1)の「情報の取り出し」では、筆者が何を起こし(提起し)、どのように説き(説明し)、まとめているかを読み取らせます。発問の種類でいえば「事実発問」に分類され、語用論的に言えば文字通りの意味(literal meaning)の段階です。書かれている内容を忠実に読み取り、まとめる段階です。長谷川氏は「どのような説明文の読みも、内容を性格に読むことが基本です。」(p.96)と述べているように、この段階をとても重視しています。
PISA型読解力という言葉が持て囃されて、(2)~(4)が重視されれば、(1)が軽視される可能性もあるでしょう。そうすれば、「この文章は何を言っているかよく分かっていないのに、また自分の意見を書かされる」という児童が可哀想に思えます。

(2)は、筆者の説明の仕方や意図を読み取る段階です。特に指導要領では「事実と意見の関係」という部分が強調されているようで、これらを区別させることで「この人はどのような立場で文章を書いたのだろう」と考えさせることにもつながります。

(3)は、例えば「この○行目から○行目の説明はわかり易いか、分からないことはないか」という発問によってスタートします。すると児童は、読んでいてあやふやな部分や気になっていたこと、筆者の考えへの賛成・反対意見を交流することができます。(この具体例については、本書の「イルカの会話」が非常にわかり易いです。ぜひご一読下さい。)

(4)が、(3)で出た疑問点を解決する段階です。その手段は、他の文献にあたったり、インターネットで調べたり、分かりにくい箇所に加除訂正をしたりすることが考えられます。また、本書では述べられていませんが、読んだものについて感想を書くなどの活動もここに入るのだろうと思います。

(1)~(4)を振り返って、「まずは文章を忠実に読む」「その後、批判的に読む」「最後に、まとめる」といった段階が見て取れます。この指導では、教師の発問によって閉じられた読解指導となる危険が少なく、主体的に児童が課題を見つけようとする姿勢にさせることが利点です。その反面、学級の雰囲気によっては、話し合いがうまく行かずに内容の浅い議論となる危険性もあると思います。

改善方法として、以前JALTで報告された「Self-Directed Studyについて(JALTに参加して)」に乗せられているGererald Grow'sの考えも使えると思います。



Gerald Grow's Website
http://www.longleaf.net/ggrow/SSDL/Model.html



すなわち、段階に応じて少しずつ教師から児童へ主導権を渡していくという考え方です。まだクラスが上の指導をするのに十分な話し合いの雰囲気ができていなければ、教師主導の授業も必要でしょう。

最後に、本書から「説明文を読む学習」についてのまとめを引用させて頂きます。上で論じた内容を簡潔にまとめられています。

■ 説明文を読む学習
1、筆者は何をどう説明しているか
全体を読み通し、どんなことが書かれているか
・文字を読む(音読・黙読)
・語、文、段落などの理解
・内容の妥当性について確認

2、筆者の説明の仕方や意図は何か
・何がどのように書かれているか
・事柄(語句 文 全体 キーワード)
・構成(順序 段落 キーセンテンス)
・要点 段落相互の関係
・叙述(事実と意見 文末 事実の吟味)
・要旨
・調べながら読む
・説明方法…語の定義、接続語、文末、文体、図表、題名と事例などの理解

3、筆者の説明はわかりやすいか。筆者は何をどう説明すべきか。
・内容と表現を批評
・感想 批評
→論理…説明相互の論理関係
 呼応関係:問いと答え
 対比関係:時間的対比 空間的対比 内容的対比
 類比関係:事例と一般化 具体と抽象 上位概念と下位概念
 並列関係:空間的な順序 重要さの順序
 因果関係:原因と結果 理由と主張 時間的順序

国語科教育入門―小学校教員を目指すために
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